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最高裁判所第二小法廷 昭和38年(あ)2046号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人藤堂真二の上告趣意は、単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由に当らない。(なお、「農地法四条は、農地について所有権その他の権原を有すると否とにかかわらず、一般に農地を転用しようとする者に適用がある」旨の原説示は正当である)

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。(裁判長裁判官奥野健一 裁判官山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

弁護人広沢道彦、同藤堂真二の上告趣意

第一、原判決には左の通り法令の解釈適用を誤つた違法がある。

一、被告人には農地法第四条による転用許可申請をなすべき義務はない。

第一審証人伊藤実の証言、検察官に対する本間正左衛門の供述調書、被告人と伊藤との交換契約書(記録一七一丁)によれば被告人が本件土地の埋立を行つたのは昭和三三年六月中であり、此土地を伊藤実と交換により所有権を取得するにつき山口県知事の許可を得たのは同年七月三日である。従つて本件土地埋立転用当時は被告人は本件土地所有権を取得していなかつた。原審は何人を問わず農地を転用せんとするものは県知事に対し許可申請をなすべき義務ありと判断したが弁護人は農地法第三、四、五条各条により許可申請をなすべき義務あるものはその土地につき所有権その他の権限を有するものに限ると解すべきである。

蓋し農地法は農地権利者に対してその権利変動、使用目的の変更を調整しようとするもので農地に何等の権利なきものがその権利ある如く装い之を売買、賃借、埋立することを規整の対象とするものではない。無権利者の農地埋立は不法な侵奪毀損行為であつてその処置は、一般刑事法の領域に属する。此場合不法侵奪者に対して農地法第四条による許可申請を期待し之に許否の決定を与えると云う如きことは、凡そナンセンスでありその不申請を処罰すると言う如きは農地法の考え及ばないところである。自然犯と行政犯はその被害法益を異にし行為の動機目的も異る、不動産侵奪罪は懲役十年以下、農地法第四条違反は懲役三年以下又は一〇万円以下の罰金と云う如く法定刑にも格差がある。既に農地法以前刑法犯として処罰される行為に対しても農地法の適用ありと解するのは明かに農地法の精神と使命を超えた拡張解釈であつて首肯できない。≪以下省略≫

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